リチウムイオン電池の容量劣化は、可逆容量低下と不可逆容量低下に分類されます。可逆容量低下は比較的軽度であり、充放電プロトコルの調整(例:充電電流の最適化、電圧制限)や使用条件の改善(例:温度・湿度管理)によって部分的に回復できます。一方、不可逆容量低下は電池内部の不可逆な変化によって発生し、永久的な容量低下につながります。サイクル寿命試験に関するGB/T 31484-2015規格では、「標準サイクル寿命試験において、放電容量は500サイクル後でも初期容量の90%を下回ってはならず、1,000サイクル後でも初期容量の80%を下回ってはなりません」と規定されています。これらの標準サイクル範囲内で急激な容量低下が見られる場合、それは容量低下不良(通常は不可逆劣化メカニズムを伴う)と分類されます。
I. 材料関連の要因
1. カソード材料の構造劣化
正極材料は充放電サイクル中に複雑な物理的・化学的変化を起こします。スピネル構造のLiMn₂O₄を例に挙げると、充放電サイクル中にヤーン・テラー効果により構造が歪みます。この歪みはサイクルを繰り返すごとに蓄積され、最終的には正極粒子の破損を引き起こす可能性があります。破損した粒子は粒子間の電気的接触を悪化させ、電子輸送を阻害し、容量を低下させます。さらに、一部の正極材料では不可逆的な相転移や構造の乱れが生じます。例えば、高電圧下では、一部の正極材料は安定した結晶構造からリチウムイオンの挿入・脱離に不利な相へと転移し、リチウムイオンの移動を阻害し、容量低下を加速させます。
2. 陽極表面における過剰なSEI成長
グラファイトアノードでは、表面と電解質との相互作用が非常に重要です。充電初期段階では、電解質中の成分がグラファイト表面で還元反応を起こし、固体電解質界面(SEI)層を形成します。通常、SEI層はイオン伝導性を持ちながら電子絶縁性であるため、アノードを電解質の継続的な腐食から保護します。しかし、SEIの過剰な成長は深刻な問題を引き起こします。第一に、SEIの形成によってリチウムイオンが消費され、通常の充放電プロセスに利用可能なLi⁺が減少し、容量低下を引き起こします。第二に、アノード表面に析出した遷移金属不純物(例えば、カソード溶解由来)は、SEIのさらなる成長を触媒し、リチウムの枯渇を加速させる可能性があります。
3. 電解質の分解と劣化
電解質はイオン輸送において重要な役割を果たします。LiPF₆のような一般的なリチウム塩は化学的安定性が低く、高温や高電圧下で分解し、利用可能なLi⁺を減少させ、有害な副産物(例えば、溶媒と反応するPF₅)を生成します。電解質中の微量水分はLiPF₆と反応してフッ化水素酸(HF)を生成します。HFは腐食性物質であり、正極/負極材料や集電体を侵します。バッテリーの密閉性が不十分だと、外部からの水分や酸素の侵入を許し、電解質の酸化を加速させます。劣化した電解質は粘度が上昇し、変色し、イオン伝導性が著しく低下し、バッテリー性能を著しく低下させます。
4. 集電体の腐食
集電体(例:正極用アルミ箔、負極用銅箔)は電流を集電・伝導します。故障の原因としては、腐食や接着力の低下などが挙げられます。腐食のメカニズムには以下のものがあります。
5. バッテリーシステム内の微量不純物
原材料に混入する遷移金属不純物(Fe、Ni、Co)は、酸化還元反応に関与したり、電解質分解を触媒したり、Li⁺のインターカレーションと競合したりする可能性があります。また、これらの不純物はSEI層を不安定化し、アノードの副反応を悪化させます。
II. 運用環境要因
1. 温度の影響
• 高温は電解質の分解とSEIの再構築を加速します。LiPF₆の分解によりPF₅が生成され、これが溶媒と反応します。一方、SEI層はイオン抵抗の高い無機物主体の膜へと厚くなります。例えば、高温環境で走行するEVは、容量低下が加速します。
2. 充放電率(Cレート)
充電中の高Cレートは、リチウムの析出を不均一にし、デンドライト(樹枝状結晶)を形成してLi⁺を消費し、内部短絡のリスクを高めます。高レート放電は分極を悪化させ、利用可能なエネルギーを減少させ、容量低下を加速させます。高電流放電を頻繁に必要とする電動工具では、バッテリー寿命が短くなることが知られています。
3. 過充電/過放電
• 過充電によりカソードの過剰な脱リチウム化が起こり、構造崩壊や電解質の激しい酸化(ガス発生、膨張、熱暴走)が発生します。• 過放電は負極のリチウム化を促進し、その構造を不安定にし、電解液の減少を引き起こします。保護回路を搭載していない初期のスマートフォンでは、このような過酷な使用条件下において急速な容量低下が見られました。
バッテリー故障の影響
深刻な容量低下は、動作時間の不足(例:充電後のデバイスの動作時間が短い)や異常な充電動作(例:充電速度が遅い)として現れます。重要なアプリケーションでは、以下の症状が見られます。
• 電気自動車: バッテリーが故障すると走行距離が短くなり、車両が立ち往生する可能性があります。• グリッド規模のエネルギー貯蔵:故障したバッテリーは電力供給の信頼性を不安定にし、グリッドの安全性を脅かします。